労働基準法(労基法)に示された大原則

労働基準法(労基法)に示された大原則

1、労働条件は、人たるに値する生活のためのもの。

2、労基法の定める基準は最低のもの。「労基法の基準を理由として労働条件を低下させてはならない」

3、労働条件の対等決定の原則。会社と個人と結ばれる労働契約は対等とはいえない→労働協約の必要。

4、労基法の基準以下の労働契約・就業規則は許されない。

5、均等待遇、男女同一賃金。

労働者一人一人が持つ権利(労働契約)

労働基準法第2章(第13条~第23条)

 

1、労働契約とは

①、労働者個々人が労務を提供するにあたり使用者(資本家)と結ぶ契約のことです。

★ 近代社会は、封建社会と違って、自由と平等を前提とした市民間の契約で成り立っている。→契約社会

★ 労働者が労働力という商品を売り、使用者がその対価(賃金)を払う労働契約は商品売買の契約と同じ契約です。

★ 労働者も使用者も契約を結んで働いているという意識が弱い。

②、労働者が提供する仕事の内容、密度、労働時間、その他労働条件は、本来労働契約で決まっています。

★商品の売買契約の三要素・・・商品の質、量、値段

★労働契約で決められていることも同じ。質=仕事の内容、量=労働時間、値段=賃金

★日本の場合は、(労働力)商品の値段だけが決められ、質も量も買主(使用者)が決める契約が多い。←欧米では考えられない契約

2、労働契約の内容

①、労働基準法による内容の規制

★労働契約の中で、労基法以下の項目は無効(労基法の規定が適用)。←これにより、労基法が定めた基準が労働条件の最低基準となります。

★労働契約を結ぶときの条件明示の規定(労基法15条1項)「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間、その他の労働条件を明示しなければならない」

②、示すべき労働条件の内容

★明示すべき労働条件の範囲(労基法施行規則第5条)

イ、就業場所及び従事すべき業務に関する事項。

ロ、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項。

ハ、賃金の決定、計算及び支払方法、賃金の締め切りおよび支払いの時期並びに昇給に関する事項。

ニ、退職に関する事項。

ホ、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いに関する事項。

ヘ、退職手当その他手当て、賞与および最低賃金額に関する事項。

ト、労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項。

チ、安全及び衛生に関する事項。

リ、職業訓練に関する事項。

ヌ、災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項。

ル、表彰及び制裁に関する事項。ヲ、休職に関する事項。

★イからニについては、就業規則のいかなる場合でも記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)に対応。ホからヲまでは、就業規則の定めのある場合には必ず記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)に対応しています。

★就業場所及び従業すべき業務に関する事項については、雇い入れ直後の場所及び業務のみならず、将来転勤又は配置転換が予想される場合は、その範囲を明示する必要があります。

③、明示の方法

★労働契約の締結のときに、賃金の決定、計算および支払いの方法並びに賃金の締め切りおよび支払いの時期に関する事項について明らかとなる書面を労働者に交付すること。(施行規則第52項)就業規則と事例でも可。

★その他は、書面でも口頭でも良い、また就業規則を提示して内容を分かるように説明しても良いとされています。

④、禁止されている契約

★賠償予定(労基法16条)、前借金の相殺(17)、強制貯金(181)

3、労働契約の効力

①、労使で締結した労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する規準に違反する労働契約の部分は無効。無効になった部分は、労働協約の定めたところとなる。なお、労働契約に定めがない部分についても同様です。(労組法16条、労働契約に規範的効力といわれる。)

★ただし、従業員が組合員とならなければ、原則として労働協約の適用を受けられません。

★就業規則を下回る場合も、その部分は無効です。(労基法93条)

4、労働契約の期間と解除

①、有期契約は1年を越えてはならない、ただし、専門職など限られた職種で3年が認められている。その他は、「期間の定めがない」契約となります。

②、契約解除(解雇、雇い止め)には、正当で合理的な理由が必要です。≪「定年まで」という契約も存在しないが、労働者が合理的な解雇理由として、定年に際して、その解雇の効力を争うことをあらかじめ放棄した制度と理解できる。正当、合理的理由=整理解雇4条件。つまり、労働契約において「正当な理由なくして定年まで解雇しない」との合意があったということ。≫

就業規則  労働基準法第9

(第89条~第93条)

1、就業規則とは

就業規則は「労働者の労働条件のすべてに関しての定め」です。

★本来、労使対等の原則にたって締結した労働協約こそ職場の憲法。しかし、現実には就業規則が憲法のように君臨しているのが現状。

★労働組合が無い、仮にあっても労働協約を成立させる力を持っている職場が少ない。

2、労働基準法での規定

①、常時10名以上の労働者がいる事業所の場合は就業規則を作成することになっています。(労基法89条)

②、作成、変更にあたっては労働者の過半数を代表する労働組合、そのような組合が無いときは全従業員の過半数の支持を得た代表(選出方法は後述)の意見を聞く必要があります。(労基法90条1項)・・・詳しくは後述

★過半数の組合の意見を聞けば、少数組合が存在してもその意見を聞く必要は無い。

★意見を聞いても、同意は必要なく、拘束もされない。

③、労働基準監督署(労基署)への届出の方法

★就業規則を作成・変更したときは、労働組合又は労働者を代表する者の意見を掲載した書面を就業規則に添付して労基署に届け出る。(労基法89条、902項)

★意見書には労働者代表の署名又は記名捺印が必要。(労基則492項)意見を聞かなかったときには30万円以下の罰金。(労基法1201号)

★使用者が労働代表に十分に時間的余裕を持って意見を求めているにもかかわらず労働者代表が意見の陳述、意見書の提出を拒んだ場合、意見を聞いたことが客観的に説明できる限り受理される。(基発735号)

④、周知義務

★ 就業規則は、常時見やすい場所に提示し、または備えつけるなどの方法で周知させなければならない。(労基法1061項)

イ、周知させない場合は、使用者は30万円以下の罰金。(労基法1201号)

ロ 周知させていない就業規則には、効力はない。(厚労省見解)

3、就業規則の内容(労基法89条1号から10号まで)

①、いかなる場合でも必ず記載しなければならない事項。(絶対的必要記載事項)

イ、始業及び就業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項。(第1号)

ロ、賃金の決定、計算及び支払方法、賃金の締め切りおよび支払いの時期並びに昇給に関する事項。(第2号)

ハ、退職に関する事項。(第3号)

②、その事項について、定めのある場合必ず記載しなければならない事項。(相対的必要記載事項)

イ、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いに関する事項。(第3号2)

ロ、臨時の賃金および最低賃金額に関する事項。(第4号)

ハ、労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項。(第5号)

ニ、安全及び衛生に関する事項。(第6号)

ホ、職業訓練に関する事項。(第7号)

へ、災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項。(第8号)

ト、表彰及び制裁に関する事項。(第9号)

チ、前各号に掲げるもののほか、当該事業場のすべてがその適用を受ける可能性があるもの。(第10号)

③ 使用者が自由に記載するもの。(任意記載事項)

4、就業規則の効力

①、就業規則は使用者も拘束する。

②、労基法との関係★労基法以下の就業規則は無効、その場合労基法の定めによります。

★労基法の改正によって、基準を下回る場合が多いので注意すること。例えば、年次有給休暇の付与日数や法定休日の割増率。

★労基法の保障する権利について、就業規則の定め方が法律の精神に反する場合があるので注意すること。(変形労働時間制の場合)日々の労働時間に長短があるというだけで、あらかじめ毎日の始業、終業時間は定めなければならない。変形だからといって使用者が勝手に毎日の労働時間を変更できるように定めている場合は無効。(年休取得について)労基法では、労働者の請求があれば使用者の承認は必要なく、使用者の承認を条件とする規定は無効。使用者が時季変更権を行使できるのは、「事業」全体の正常な運営を阻害する場合で、ただ単に忙しいという「業務」の正常な運営を阻害するというだけでは要件に合致しない。就業規則に時季変更権行使を「業務の・・・」としている場合は労基法に違反、無効。

③、労働協約は就業規則に優先します。(詳しくは労働協約の項)

④、就業規則は、労働契約に優先します。

5、労働者・労働組合が注意すべき点

①、就業規則の制定・改廃には「過半数」労働者の代表の意見聴取が必要です。

★就業規則は、事業所単位に制定、届けられるものだから、その事業所(複数の場合は夫々)の全労働者(パートなども含まれる)の過半数の代表となります。

★労働者の規定とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用されるもので、賃金を支払われる者」(労基法9条)、使用者とは「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」(労基法10)

★過半数の代表者規定は、三六協定、フレックス・タイム、1年の変形労働時間制、その他「賃金からの差し引き協定」、みなし労働時間制、裁量労働時間制の書面協定でも要件となっています。

★過半数以上を組織した労働組合がない場合の代表者を選ぶ方法について。(基発第1号)適格性・・事業場全体の労働時間等の労働条件の計画・管理に関する権限を有するなど管理監督者でないこと。選出方法・・・(A)当該事業所の労働者に判断する機会が与えられていること、(B)労働者の投票、挙手などの民主的な手続きがとられていること。←組合としては、原則として無記名投票を要求すべきです。

②、労働組合の就業規則に対する意見について

★意見を求められながら出さないと、就業規則は受理される。さらに黙示の同意と見られかねません。

★一方的改悪の場合、そのことを明確にしておけば、改悪条項を労働組合の組合員に適用させることはできません。

6、一方的改悪…不利益変更について

就業規則の一方的改悪(不利益変更)は認められません。

★高度の必要性、合理性があり、代償があれば認められる可能性があります。最近その傾向が強くなっているので注意を要します。

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