労働組合と組合員の権利(労働組合法)
労働組合と組合員の権利(労働組合法)
労働組合は労働者の働く権利や環境を守るために作られ、憲法で擁護された団体です。産業革命後のドイツやイギリスで労働基準法や労働組合法が形成されていったのに対し、日本の労働法はずっと長い間にわたり貧弱でした。
Ⅰ、労働組合、及びその役割と目的
労働者が労働者の地位を向上させるために労働組合を組織することを擁護し、使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するために、正当性のある要求に基づいて経営者と対等に労働組合が交渉できる権限を保障している。争議行為に対する刑事免責(刑法の適用を受けない)、民事免責を受けます。以下、労働組合法(労組法)の規定に基づいてポイントを説明します。(なお、争議行為の法律上に規定は労働関係調整法第7条のとおりです。)
1、労働働組合は、規約に次の規定を含まなければなりません。(労組法5条)
イ、名称
ロ、所在地
ハ、組合員が労働組合のすべての問題に参与する権利、平等に扱われること。
ニ、人種、宗教、性別、門地、身分によって組合員たる資格を奪われないこと。
ホ、役員の選出は、直接無記名投票による。
ヘ、総会は、少なくとも毎年1回開催すること。
ト、会計報告の職業的に資格のある会計監査人(公認会計士、監査法人)による証明と組合員への年1回の公表。注)職業的資格のある会計監査人の証明は、法人登記をする場合など以外、不当労働行為のための資格審査の要件とはなりません。
チ、ストライキ権の確立のための投票は、直接無記名による。
リ、規約改正は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持が必要
★下記の団体は労働組合とは認められません。
イ、使用者の利益を代表する者の参加を許すもの。(具体的には次項)
ロ、使用者の経理上の援助(後に記述する便宜供与を除く)を受ける団体
ハ、共済や福利事業のみを目的とする団体
ニ、主として政治運動又は社会運動を目的とするもの
2、使用者の利益を代表する者(下記に示す)以外の
すべての従業員は、労働組合に加入できます。
★課長などの職制名などに関係なく、実質的に下記事項に触れるもの。なお法律上の労働者とは職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活するものをいいます。
①すべての会社役員,工場支配人、人事並びに会計・人事・労働関係に関する秘密情報に接する者。
②従業員の雇用、転職、解雇の権限をもつ者、会社の政策(生産、経理、労働関係など)決定について権限・或いは直接これに参画する者。
③労務部の上級職員。
④秘書および人事、労務関係の秘密の事務を取り扱う者。
⑤会社警備の任にあたる守衛。(ただし、見張り、受付、巡視などのみの場合は除く)
★、労働組合員の範囲は、上記の使用者の利益を代表するもの以外で、労働組合が決めればよいことになります。(使用者は組合員の範囲を狭くしようとするので注意すること)
注) ユニオンショップで組合員の範囲が決められている場合でも、範囲以外の従業員も組合員になれる。(ユニオンショップ協定適用外の組合員)
Ⅱ、使用者がやってはいけない行為
(不当労働行為)労働組合法第7条
1、
①、労働者が労働組合員であること、又は労働組合を結成したことを理由に解雇や不利益扱いをすること。
②、労働組合に加入しないこと、脱退することを条件(雇用条件)に採用すること。(黄犬契約という) ★、組合員であることを理由に、賃金や配置転換、昇給昇格などで差別することは許されません。さらに厚労省の見解では, 使用者側の言動が、その意図の如何に関わらず、団結権侵害に向けられたときや、スト参加による不就業を無届欠勤扱いにし、懲戒もしくはそれに似た取り扱いをすることなども不当労働行為となります。
★、組合員に対する「不利益取り扱い」、例えば、組合員のいない、又は極端に少ないなど組合組織の充実していない事業所に転勤させること、新会社をつくって組合員だけを再雇用しないこと、従来の職種と違う職場へ配転をすること、さらに、小会社への移籍を拒否したことを理由に解雇することなどが不当労働行為と認定されています
★、同様に、活発な組合員を経歴詐称を理由に解雇することや、新たに実施した定年制によって組合活動家を解雇すること、希望退職が目標に達したのに、組合員を解雇することなども不当労働行為となります。
★、組合対策として、成績不良を理由に解雇するのは不当労働行為になることがある。例えば、母看病のため病欠、通学のための早退などを理由にした解雇などや、組合活動家を遠方の事業所に転勤させることは認められません。
2、正当な理由なく団体交渉を拒むこと。(団体交渉の応諾義務違反)
★、≪交渉員の問題≫労働組合が従業員でないもの(上部や委任したもの)を労働者代表として申し込んだ団体交渉は、拒否できません。(ただし、労働協約で第三者委任禁止が定められていると拒否が認められてしまうので注意をすること。)また、被解雇者が交渉委員になっていることを理由に、団交は拒否出来ません。
★、≪合意事項の文章化について≫合意に達しているのに協定への調印、調印交渉を拒否すること、賃上げ要求に対しての文書回答化を拒否、団交を決裂させることは認められません。
★、≪唯一交渉協定がある場合≫多数組合が唯一交渉協定を結んでいる場合でも、少数組合との団交を拒否することは出来ません。
★、≪交渉方式について≫団交ルールが労使間で合意・設定されていないことを理由にして団交を拒否することは出来ません。
★、≪交渉手続き・対応について≫よくある次のようなことは認められていません。
1、ゼロ回答を続け、その理由を誠意を持って説明しないこと。
2、(会社が)団交に対案も用意せず、進んで討議に参加しないこと。
3、団交には社長が出席せず、出席者は全面的な決定権を持たず、理由を示さずゼロ回答を続けること。
4、組合規約、組合員名簿不提出を理由にして団交を拒否すること。
5、団交席上組合側から若干の感情的発言があったことを理由に団交を拒否すること。
6、書面回答は団交義務を果たしたとはいえません。
★、≪交渉事項について≫労働条件そのものについてだけでなく、労務内容の変化が生ずる(受注の決定、下請化、職場再編成、会社解散、解雇など)事項も含まれます。
3、労働組合の運営への介入、経費の援助をすること。(労働組合の運営への支配介入) ただし、時間内組合活動、福利厚生に対する寄付、組合事務所の供与は認められる。(便宜供与)
★、≪組合軽視・団交軽視と支配介入≫組合の要求に対する回答を組合にせず、直接組合員・従業員に示すこと(飛越し回答)や、組合の存在を無視して組合員と直接労働条件の交渉をすることは認められません、また、誠意ある団交を尽くさないまま、賃金・一時金の支給を一方的にすることも認められません。
★、≪組合組織に対する介入≫、組合役選への介入や、組合の争議に対抗するため、非組合員たる管理者を濫造することも認められていません。
4、便宜供与
使用者の組合に対する経理援助は認められていないが次の項目については認められている。
①、事務所の供与
★、利用者の範囲の制限、利用時間を制限することは出来ません
★、協定に基づき、貸与契約を結ぶようにすること。(たとえ無償貸与契約であっても使用貸借契約であって、労働法的使用関係ではないので、労働協約失効でも権利は消滅しません。)
②、組合掲示板、チェックオフ
★、掲示物に対する事前許可は認められません。(たとえ取り決めがあっても)
★、組合掲示板、チェックオフは、労働協約に基づくもので協約の失効によって権利も消滅します。
③、時間内の交渉についての賃金保障。
5、労働委員会への申し立て(再審申し立ても含む)、労働者の証拠提出、証言を理由として解雇、不利益扱いをすること。
Ⅲ、労働協約労働組合法第3章(第14条~第18条)
1、労働協約とは
労働協約とは「労働組合がたたかいのすえに勝ち取った成果を労使間で確認した文書」です。
★、労働協約によって、内容によっては労働者を締め付けるためのものになる場合があるので、労働者にとって有利なものだけを協定化すること。(労働条件等の切り下げに対する強力な武器になります)
2、労使間の確認文書はすべて労働協約
イ、「協定」「覚書」「確認書」など名称に関係ありません。必ず労使双方が署名・捺印すること。
ロ、包括的協約だけが協約ではなく、個別の賃金など労使間で確認した文書も協約です。
★ 個別の協約の積み重ねこそ重要です。協約がない部分は、法律通りです。
3、労働協約の分類
イ、債務的条項・・・労働組合がもつ権利(債権)を、使用者が守り、実行すべきこと。
1)組合活動に関する部分
★ 時間内の組合活動、施設利用(電話の取り次ぎ、組合事務所、掲示板など)、チェックオフ、専従など
2)労働基本権に関連する部分
①ユニオンショップ、唯一交渉団体協約など
②組合員の範囲、団交事項、団交手続、争議手続、争議不参加者など
③ユニオンショップについては、企業ごとに結ぶ場合については注意を要します。
★憲法や労組法で保障された労働組合・労働者の権利を制限する協約は必要ない。前項①のロの協定の各項目。(権利を譲歩してまで取る価値が無い、協定がなくても当面は労組法で充分であるし、獲得するならば労組法の規定以上のものを)(注意すべき協定・・・唯一交渉団体約款、組合員の範囲、第三者委任禁止条項、平和条項、ユニオンショップなど)
ロ、規範的事項・・・労働条件に関する部分労働時間、休日、休憩などの労働条件、退職金、人事条項など
★包括的労働協約を追及するのでなく、労働条件の協定(規範的事項)の積み重ねを重視すべきです。
★注意すべき協定の結び方・・・残業・休日出勤の活用、残業手当の計算方法、年休の取り方、休暇・特別休暇(慶弔など)の重なりなど。
4、労働協約と「労基法上の協定」との違い
賃金からの差し引き協定(労基法24条)、時間外・休日勤務に関する協定(労基法36条)、フレックスタイム制(労基法32条の2)、1年単位の変形労働時間制(32条の4)、みなし労働時間制(38条の2、3項)、裁量労働時間労働制(38条の2)
イ、対象の違い(労働協約は労働者の要求にかかわるすべて、労基法上の協定は労基法の要求する項目のみ)
ロ、主体の違い(締結の主体は、労働協約の場合は労働組合、労基法上の協定の場合は事業所の労働者の過半数の代表)
ハ、効力の違い〔労働協約は原則として労働組合員のみ(次に説明する一般的拘束力を持つ場合を除いて)、労基法上の協定は全従業員に適用〕
5、労働協約の効力
イ、労働協約は、就業規則に優先する。
★「労働条件は労使対等で決定」(労基法2条)であり、「就業規則は労働協約や法令に反してはならない」(労基法92条)となっている。「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効とする」(労基法16条)
★したがって、就業規則は、労働契約には優先するが、労働協約には勝てません。
ロ、労働協約の適用範囲労働協約の効力が及ぶのは、労働組合員に限られるのが原則です。
★ただし、事業場内同一地域で組合員より低い労働条件で働く非組合員がいると、労働組合の組合員の労働条件も足を引っ張られ、低くされる恐れがあるので効力が事業所全体(労組法17条)、地域(労組法18条)に及ぶ規定があります。(一般的拘束力という)
★「ひとつの工場事業所に常時使用される同種の労働者の4分3以上の労働者が一の労働協約の適用を受けるにいたったときは、当該工場事業場に使用される他の同種労働者に関しても、当該労働協約が適用される」(労組法17条) ≪パート、臨時の労働者も「同種」と扱うべきですが、採用条件、賃金、試用期間が常用工と違った扱いがなされており、拡張適用すべきでないという考えが強い。ただし、「女性の臨時社員の賃金が女性正社員の8割以下は違法」(丸子警報機事件判例)≫
★少数組合の協定内容が有利な場合は、多数組合の協定の拡張適用されない。その他の場合は、少数組合にも適用されるという説が有力です。
★署名又は記名捺印のない協約の効力は、合意があることに争いがない以上は労使を拘束する。ただし、前述の一般的拘束力は持てません。規範的効力は効力を有すると解すべきですが、反対見解の判例もあります。
6、労働協約の有効期間と失効(労組法15条)
イ、協約の有効期間は3年
★期間を定める場合は、3年が限度。(労組法15条1項)たとえ5年と決めても3年の有効期間を定めたものとみなされます。
ロ、期間の定めのない協約の場合
★ 3年で失効することはありませんが、90日前に予告さえすれば、90日の経過後には失効します。(労組法15条3項、4項)また、「有効期間1年と労使いずれかの改廃の申し入れがないときは、更に1年に限り有効(自動更新条項)」という協定の場合は、双方の異議がなければ、何年でも存続しますが90日間の予告で失効させられます。(労組法15条3項) 2
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