労働契約法を掲載します。

○労働契約法

(平成十九年十二月五日)

(法律第百二十八号)

第百六十八回臨時国会

福田(康夫)内閣

労働契約法をここに公布する。

労働契約法

目次

第一章 総則(第一条―第五条)

第二章 労働契約の成立及び変更(第六条―第十三条)

第三章 労働契約の継続及び終了(第十四条―第十六条)

第四章 期間の定めのある労働契約(第十七条―第二十条)

第五章 雑則(第二十一条・第二十二条)

附則

第一章 総則

(目的)

第一条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

(労働契約の原則)

第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

(労働契約の内容の理解の促進)

第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。

2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

(労働者の安全への配慮)

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

第二章 労働契約の成立及び変更

(労働契約の成立)

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

(労働契約の内容の変更)

第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

(就業規則による労働契約の内容の変更)

第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

(就業規則の変更に係る手続)

第十一条 就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条の定めるところによる。

(就業規則違反の労働契約)

第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

(法令及び労働協約と就業規則との関係)

第十三条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

第三章 労働契約の継続及び終了

(出向)

第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

(懲戒)

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

第四章 期間の定めのある労働契約

(契約期間中の解雇等)

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

(平二四法五六・一部改正)

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)

第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

(平二四法五六・追加)

(有期労働契約の更新等)

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

(平二四法五六・追加・旧第十八条繰下)

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

(平二四法五六・追加)

第五章 雑則

(船員に関する特例)

第二十一条 第十二条及び前章の規定は、船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。

2 船員に関しては、第七条中「第十二条」とあるのは「船員法(昭和二十二年法律第百号)第百条」と、第十条中「第十二条」とあるのは「船員法第百条」と、第十一条中「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条」とあるのは「船員法第九十七条及び第九十八条」と、第十三条中「前条」とあるのは「船員法第百条」とする。

(平二四法五六・旧第十八条繰下・旧第十九条繰下・一部改正)

(適用除外)

第二十二条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。

2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

(平二四法五六・旧第十九条繰下・旧第二十条繰下)

附 則 抄

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(平成二〇年政令第一〇号で平成二〇年三月一日から施行)

附 則 (平成二四年八月一〇日法律第五六号)

(施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第二条並びに次項及び附則第三項の規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(平成二四年政令第二六七号で平成二五年四月一日から施行)

(経過措置)

2 第二条の規定による改正後の労働契約法(以下「新労働契約法」という。)第十八条の規定は、前項ただし書に規定する規定の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、同項ただし書に規定する規定の施行の日前の日が初日である期間の定めのある労働契約の契約期間は、同条第一項に規定する通算契約期間には、算入しない。

(検討)

3 政府は、附則第一項ただし書に規定する規定の施行後八年を経過した場合において、新労働契約法第十八条の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

附 則 (平成三〇年七月六日法律第七一号) 抄

(施行期日)

第一条 この法律は、平成三十一年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

一 第三条の規定並びに附則第七条第二項、第八条第二項、第十四条及び第十五条の規定、附則第十八条中社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)別表第一第十八号の改正規定、附則第十九条中高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号)第二十八条及び第三十八条第三項の改正規定、附則第二十条中建設労働者の雇用の改善等に関する法律(昭和五十一年法律第三十三号)第三十条第二項の改正規定、附則第二十七条の規定、附則第二十八条中厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)第四条第一項第五十二号の改正規定及び同法第九条第一項第四号の改正規定(「(平成十年法律第四十六号)」の下に「、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」を加える部分に限る。)並びに附則第三十条の規定 公布の日

二 第五条の規定(労働者派遣法第四十四条から第四十六条までの改正規定を除く。)並びに第七条及び第八条の規定並びに附則第六条、第七条第一項、第八条第一項、第九条、第十一条、第十三条及び第十七条の規定、附則第十八条(前号に掲げる規定を除く。)の規定、附則第十九条(前号に掲げる規定を除く。)の規定、附則第二十条(前号に掲げる規定を除く。)の規定、附則第二十一条、第二十三条及び第二十六条の規定並びに附則第二十八条(前号に掲げる規定を除く。)の規定 平成三十二年四月一日

(検討)

第十二条

3 政府は、前二項に定める事項のほか、この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律(以下この項において「改正後の各法律」という。)の規定について、労働者と使用者の協議の促進等を通じて、仕事と生活の調和、労働条件の改善、雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保その他の労働者の職業生活の充実を図る観点から、改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

(政令への委任)

第三十条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

<参考>

労働契約法と労働基準法の違い

【法律の性格】

労働基準法――憲法27条「②賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」

この条文に則って、労働条件に関する最低基準を定めており、違反したら罰則があります。【強制法規】

労働契約法――商法と同じ民法。したがって、罰則規定はありません。

【法律の目的】

★  労働基準法では、

憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」労働基準法は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきもの」(1条)であることを保障するために、最低限の労働条件を定めています。

★  労働契約法では、

第1目的として「労働者及び使用者が円滑に労働契約の内容を自主的に決定することができるようにする」となっており、「労使自治」と言う考え方に基づいています。つまり、労働契約の内容については、労使で自主的に決めることであり、行政が介入すべきではないという考え方です。

【労働者の定義について】

労働基準法9条の「労働者」の定義によれば、労働者が直接雇用契約を結んでいなくとも、経済上従属させられている場合には、事業主に使用者責任が課せられます。例えば契約上では請負契約を結び個人事業主の扱いをされていても、裁判で経済上従属していると認められれば、突然の契約打ち切りなどが制限されることになります。

しかし、労働契約法では、労働者の定義を狭く規定しているので、経済上従属させていても事業主に使用者責任が問われなくなる恐れがあります。

【使用者の定義について】

 労働基準法10条の「使用者」の定義では、「事業主」だけではなく、「事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者」と規定されているので、労務担当の管理職もこれに含まれます。

 しかし、労働契約法では「労働者に対して賃金を支払う者」と狭く定義しているので、会社の役員しか含まれないことになってしまいます。

【労働条件の決定】

(1) 労働契約法では、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結」となっていますが、この「労使の対等性」をいかに保障するかについては何も定めていません。

あるがままの労使関係では、当然にも雇用される労働者の方が圧倒的に弱い立場に立っています。だからこそ「労働者保護」を目的とした労働基準法が制定されたのです。労働契約に関しては、労働基準法の第2章において定められています。それにもかかわらず、労働基準法とは別に労働契約に関する法律をつくること自体が労働基準法を空洞化させる意味を持ちます。つまり、今後は、労働契約に関する紛争については、強制力のある労働基準法ではなく、罰則規定のない労働契約法により「解決」を図ろうとしているのです。

(2) 本来、労使の対等の関係を保障するためには、立場の弱い労働者が団結する以外にはありません。そこで憲法28条、それに則った労働組合法が制定されたのです。

★憲法28条「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」

★労働組合法1条

     「この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること…目的とする。」

ところが、労働契約法では、使用者と労働者は、普通の商品取引と同じようにあらかじめ対等の契約者として扱われています。実際、労働契約法では、労働契約に際して明示した労働条件が「事実に相違する場合には、労働者が即時に契約を解除することができる」ことを保障しているにすぎません。しかし、実際の労働者は、働く場を失えば、生活していく事ができません。

【労働契約の内容】

 労働基準法15条においては、「労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められています。しかし、労働契約法においては、労働契約に際して明示しなくてはならない事項に関しても何の規定もありません。

【就業規則について】

労働契約法では、労働契約の内容について「合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、その就業規則の労働条件によるものとする」と定められています。労働契約に関する原則では、「労働契約は、労働者と使用者の合意に基づいて締結する」となっているにもかかわらず、具体的な規定においては、労働者の同意と無関係に制定された「就業規則の労働条件によるもの」としている。

しかも、労働基準法においては、89条で就業規則の「作成及び届出」が、106条で、労働者に対する「周知」が義務付けられています。違反した場合には、使用者に罰金が課せられます。労働契約法では、就業規則に関する規定は何もありません。

【労働条件の不利益変更】

(1) 労働基準法の2条の規定により、労働者の同意のない労働条件の一方的な不利益変更は認められず、無効となります。とりわけ、賃金に関しては、裁判の判例においても「賃金は最も重要な契約要素」であり、「従業員の同意を得ることなく、一方的に不利益に変更することは出来ない」とされています。つまり、これまでの裁判所の判例からしても、労働条件の不利益な変更は、「原則として許されない」(秋北バス事件・最高裁・昭和43年)のです。労働契約法では、この原則が明確にされていません。