106万円、130万円の壁 社会保険

10月からの改正でどうなる?

 10月からパートタイムで働く主婦に、新たな「収入の壁」ができた。いわゆる「106万円の壁」と言われるもので、年収106万円以上などの条件を満たすパートタイマーは、10月1日より厚生年金など社会保険の加入対象となる。

 パート主婦は「損しない収入はいくらまでか」について高い関心を持っていて、「税金」と「社会保険」の2つの壁を越えるべきかどうかを悩む主婦が多い。最初に「税金の壁」があり、年収が103万円を超えると自分の収入に所得税がかかりはじめ、夫は配偶者控除が受けられなくなる。

「社会保険の壁」は130万円だ。これを越えると夫の社会保険の扶養から外れるため、自分で社会保険料を負担することになる。

 そして今月から新たに加わったのが「106万円の壁」である。施行日以降、テレビや新聞等で連日取り上げられているので、ニュースを見聞きした人は多いだろう。

 これまでパートタイマーは週30時間以上働くと厚生年金の加入対象だったのが、週20時間以上に広がった。対象となるのは、従業員501人以上の企業に1年以上働く見込みで、年収約106万円(月8万8000円)以上の人。大型スーパーなどに働く人に影響はあるが、勤務先が小規模だと今のところ対象外となる。

 対象となるパートタイマーは106万円を越えると、社会保険に加入し、厚生年金・健康保険・介護保険の保険料を負担することになる。たとえば、1日5時間、週4日働くと、労働時間は週20時間。時給が1100円なら、月額8万8000円で「106万円の壁」を越えることになる。

 妻の収入が「103万円の壁」を超えたとしても、夫は配偶者特別控除を受けることができるため、世帯の手取り収入が減ることはない。

 年約30万円以上多く働かないと「ソン」を解消できないため、働く時間を減らして「社会保険の壁」を越えないよう調整するパートタイマーは少なくない。

パート主婦が「壁」を越えて社会保険に入るメリット

 パート主婦は、社会保険料を負担しなくてもいいように就業調整をすべきなのだろうか。この数日の新聞紙面でコメントしている専門家のほとんどが、壁を越えて働くことを推奨している。私も越えたほうがいいと考えている。

 社会保険の壁を越えるメリットは複数ある。まず、厚生年金に加入すると老後に受け取る年金が増える。月収8万8000円で20年間働くと、厚生年金が月1万円弱上乗せされる。わずかな額だが、公的年金は生きている限り払われるものなので、メリットといえるだろう。

 自ら健康保険に加入すると、病気やケガをして仕事を休んだときの所得保障である「傷病手当金」が受けられる。給付額は日給(標準報酬日額)の3分の2で、実際に休んで給料がストップした日数分が最長1年6ヵ月支払われる。

 また、勤務先の健康保険に「付加給付」という上乗せ保障があれば、医療費の高額療養費の上限が通常よりも少なくてすむ。たとえば、一般的な収入の人の場合、高額療養費の月額上限は約9万円だ。手術のために入院をして、窓口で3割負担として30万円、40万円支払ったとしても、上限額を超える分は、後日払い戻される。

「付加給付」がある健康保険組合だと、月額上限が2~4万円というケースが少なくない。がんに罹り、手術を受けても、外来で抗がん剤治療を受けても月2~4万円の自己負担で済むのはありがたい。

 今回「106万円の壁」の適用対象となるのは、従業員501人以上という大企業なので、付加給付を備える健保組合である可能性が高い。健保組合の多くはHPを開設しているので、「医療費が高額になった場合」のページで確認してみるといいだろう。付加給付が充実しているなら、民間医療保険を見直しすることもできる。

さらに制度改正があったときに
「選ばれるパートタイマー」になるためには

 実際にパートで働く主婦にとってみると、メリットがあるのはわかっている、でも「働きゾン」を解消するほどの年収を稼ぐために働く時間を今より大きく増やすのは無理…というのが本音のようだ。

 パート主婦の多くは、働き始める際「働くなら、子どもと家庭を第一に。自分と子どもに負担をかけない範囲で」と夫に言われたから、勤務時間を増やすことはできないと言う。

 夫の年齢や収入が高いほど「働くなら家庭に負担を持ち込まないで」と言われる傾向にあるため、これ以上働くと自分ばかりが疲れると思ってしまうのだろう。

 こうした主婦は、現在の収入が年125万円程度あったとしても、新たな社会保険の壁の出現で収入を106万円未満に下げるべく、就業調整を行うことになる。

 パート主婦の本音は理解できる。しかし、今後の制度改正を見据えると、早い段階で「壁」を越えてしまったほうがいいのである。仮に数年の間、損をすることになったとしても、越えるべき。

 なぜなら、今後「106万円の壁」の対象企業は拡大、年収の壁はさらに引き下げられるのが十分予想できるからだ。少子高齢化や医療費の高額化が進み、年金や医療保険の財政はきびしいのが現実だ。国にしてみると、保険料を負担せずに社会保険に加入できる「第3号被保険者」や「被扶養者」はお荷物というのが本音だろう。今回の社会保険の適用拡大は、第3号や被扶養者の撤廃に向けての受け皿となる制度改正の「第一歩」といえる。

 こうした話を就業調整するパート主婦にすると「もっと年収の壁の金額が引き下げられたら、その時に壁を越えるつもり」と言う。それでは遅いと思う。

 たとえば、年金の「第3号保険者」と、健康保険の「被扶養者」の制度が廃止され、働いても働いていなくても自ら保険料を払うような制度改正が行われたら、収入の壁を気にせずにたくさん働きたい人が急増するだろう。

 そのときに、たくさん働きたい人全員が希望を叶えられるわけではない。人を選び、勤務時間を決めるのは、勤務先の上長である。では、上長に「選ばれる人」はどんな人か。

 職場との関係を考えるなら、日頃から熱心に働き(これは当たり前)、年末の繁忙期で人繰りが厳しいときにも就業調整せずに働いてくれている人を優先してシフトを組みたい。「選ばれる人」になるには、時間をかけた準備が必要なのである。

 男性は人を使う側の視点で考えるから、「選ばれるパートになるため、短期的にソンしても、将来のトクを取るべき」という私の考えに同意し、妻に向かって「がんばってもう少し働いてみたら」と言う。

 妻にしてみると「たくさん働くなと言っていたくせに」と思うようだが(そういう顔をしている)、夫はそんなことを言ったことはすっかり忘れている。子どもの成長とともに教育費負担は増している上、管理職になっても思ったほど給料は上がらない。実は、妻が収入を増やしてくれるのは、願ってもないことなのだ(自分からは頼めない)。

 夫が「もう少し働いてみたら」と言うなら、妻は働こう。そして、家事などで不満を言われたら「働いてみたらと言ったじゃない。自分のことは自分でして」と言い返せばいい。

収入を増やすには時給アップも有効な手段

「社会保険の壁」は、世帯の手取り収入に密接に関わる問題なのに、妻はパート仲間同士で「目先のソントク」の話に終始し、夫は新聞やネットのコラムを読んで「ふーん」と思うだけ。これではいけない。

 夫婦で話をすると、男性の視点、女性の視点からその家庭ならではの新たな発見があるはずだ。今回の制度改正をきっかけに、夫婦で話をしてみよう。

 収入を増やすために、もう一つアドバイスがある。勤務時間を増やす以外に、時給アップの努力もしよう。

 今の勤務先で、役割を増やして時給アップを目指す。

 数今、自分がしている仕事とこれからチャレンジしてみたい仕事の目標をまとめて、役割交代としてスキルアップを目指し、評価されるように努力して、結果面談

次年度時給が上がった! 次の年度も頑張れば上げてくれることを約束してくれた!」とのエピソードもありますよ。これも「男性目線」を入れることの効果である。

 男性と女性とでは話の進め方が異なるので、慣れないと双方イラッとする瞬間もあると思うが、感情面のひっかかりはさらっと流しながら世帯収入アップのための「夫婦会議」にトライしてみよう。

何が損なのか?難しいですね。
減らすばかりではなく、チャレンジしてみませんか?